保育園の運営費と人件費を詳しく検討する②

前回のエントリから少し時間が空いてしまいました。申し訳ありません。
取材と研修などでバタバタしておりました。

さて、続きです。


前回は大阪市のA保育園の資料から、園児一人ひとりの「個人別明細」による「人件費」「管理費」「一般生活費」について説明しました。

市が計算している時点で「人件費」が圧倒的に多く、「管理費」「一般生活費」が少なすぎる状況が見て取れたと思います。
今回は他の項目(表の2分割の下部分)を含めてみていきます。


前回のA保育園2016年7月分の「精算書」です。

 

人件費

管理費

一般生活費

利用人数

乳児

1,765,696

132,184

98,040

1,995,920

10

12歳児

5,202,270

389,994

474,156

6,066,420

50

3歳児

829,032

65,516

142,392

1,036,940

22

4歳以上児

1,213,808

97,414

261,858

1,573,080

40

   

  ⇒小計

10,672,360

 


所長加算

   

986,020

122

3歳児加算

   

176,660

22

分園減額

   

397,060

23

主任加算

   

276,940

122

事務員加算

   

50,020

122

冷暖房加算  

   

13,420

122

9,010,806

685,108

976,446

1,1778,360

 

(※ 表が2つに分割表示されていますが、実際には1つに繋がっています。また6列目の「小計」は原本にはありません。 大川)


〇「所長加算」「3歳児加算」「主任加算」「事務員加算」について

正しくは「所長設置加算」「3歳児配置改善加算」「主任保育士設置加算」「事務職員雇上げ加算」。

施設長、主任、事務員、3歳児担任の保育士を多めに配置している場合は人件費がプラスされます。
あとで考察します。

〇「分園減額」について

正しくは「分園による減額」。
本園には必要でも、分園には必要でない項目があります(例、所長の設置や調理室設備が義務ではない)。
そのため、ただでさえ不十分な運営費は分園を運営すると「15%減額」になってしまいます。 
 ⇒なんの罰ゲームでしょうか?

「分園による減額」も「人件費」「管理費」「一般生活費」に分けることができます。
前回紹介した内閣府(2016.9.3通知)「子ども・子育て支援法附則第6条の規定…」の末尾に以下の説明があります。

「調整部分(分園の場合、恒常的に土曜日を閉所する場合、定員を恒常的に超過する場合)については、調整部分以外の人件費、管理費、一般生活費の割合で按分して算出すること。」

つまり精算書にある「人件費」:「管理費」:「一般生活費」の割合をもとに計算すると、「分園による減額」も案分できます。計算します。
9,010,806:685,108:976,446/10,672,360 =84.43:6.42:9.15

「分園による減額」-397,060円は以下のように案分されます。
「人件費」‐335,238円:「管理費」‐25,491円:「一般生活費」‐36,331円

〇『本来の人件費』

上記のように「所長設置加算」なども本来は「人件費」です。
ややこしいので、別の記載方法にします。

・「人件費」⇒「精算書」の上5行分の人件費合計額 
・『本来の人件費』⇒「所長設置加算」なども含めた総計 


A保育園の『本来の人件費』は…
9,010,806+986,020+176,660+276,940+50,020-335,238 =10,165,208円

同様に本来の「管理費」「一般生活費」を再計算すると以下のようになります。

「管理費」685,108-25,491=659,617

「一般生活費」976,446-36,331=940,115


◇考察 運営費における『本来の人件費』の割合

さて改めて、「精算書」の中で『本来の人件費』は、運営費全体の何割を占めているでしょうか? 

『本来の人件費』÷運営費全体
10,165 ,208÷11,778,360=0.86…8割6分 


「人件費」÷運営費全体
9010806÷11,778,360=0.765…7割7分


「人件費」は実際の支出としてまだあり得る金額です。
しかし『本来の人件費』どおりに支出したとすると運営に支障が出ます。

【行政は、ありえそうな「人件費」(7割7分)が設定できる計算方法にしているように思われます。】

【また「これだけ人件費に設定していますよ」というポーズをつくり、「あとは運営している各法人しだいです」と言い逃れられるようにしているとも考えられます。】


〇実際の決算書類から再検討

〇A保育園の「平成27年度決算」から

A保育園の1年間の人件費は125,066,259円、事業費(=「一般生活費」)は14,531,514円、事務費(=「管理費」)は18,229,129円です。

全体に占める人件費の割合は
125,066,259円÷157,896,902円=79.20%

それぞれ1ヶ月分を案分する。

人件費1ヶ月分           =10,422,188円(四捨五入)

事業費(=「一般生活費」)1ヶ月分 = 1,210,960円(〃)

事務費(=「管理費」)1ヶ月分   = 1,519,094円(〃)


※前回も書きましたが…A保育園の状況をおさらい

園児定員:本園90名 +分園30名 計120名 

全職員数:35人

正規職員:24人(保育士18人+栄養士調理師3人+園長・理事長・事務)

パート職員:11人  

〇「決算書」と「精算書」を比較する

「決算書」をもとにしたA保育園の1ヶ月分の事業費、事務費は…

事業費(=「一般生活費」)は1,210,960円(四捨五入)

事務費(=「管理費」)は   1,519,094円 (〃)

             合計 2,730,054円


一方、「精算書」の『本来の人件費』以外の運営費は…

「管理費」659,617円+「一般生活費」940,115円+「冷暖房加算」13,420円=1,613,152円

【精算書の「人件費」以外の合計では、実際の1か月の「事業費」、「事務費」の合計から1,116,902円不足している。つまり、実際の運営では、清算書に設定された「人件費」を別の費目にあてざるを得ない。】

※一応、「冷暖房加算」を加えましたが、これは冷暖房がいる時期だけの費目です。
また120人の園児の一カ月の冷暖房に13,420円ではとても足りません。

ちなみに精算書における「人件費」「事務費」「事業費」の区分について大阪市に問い合わせると、「目安であって、このとおり使わなければならない訳ではない」との答えでした。

一方で、例えば「事業費」が低すぎる場合などは監査で指導されることになります。以下の通知の規定内に収まる運営であれば、各項目を弾力的に運用してもよいことになっています。

「保育所運営費の経理等について」(厚労省299号通知)

「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」(内閣府254 号通知)http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/law/kodomo3houan/pdf/h270903/siritu_hoikuen_keiri.pdf

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